「晋助!」
「―――っ!」
ゴン、という不吉な音にマズイ、と思ったがしかしそれは後の祭り。
鬼兵隊のまさに鬼が、少々涙目になりつつもこちらをギンと睨んでいた。
「あは、あはははは……。…ごめんなさい!睨まないで!」
「ったく、で?何の用だ」
「あの、えっと、大した事じゃあ、ない、んだ、けど、ね?」
途端、不機嫌そうに歪められた顔に思わず、ヒイッと後ずさりした。
(あれ、私晋助の彼女じゃなかったけ?)
それでも話は聞いてくれるらしい。
(よかった、まだ私は好かれてるらしい)(誰かポイントずれてると突っ込んで)
ちょいちょいと彼の女物の着物の袖を引っ張る。
「虹がね、出てるんだよ!」
はあと溜息をつくもんだから、てっきり下らないと言われるのかと思ったら、意外なことに何処だと言われた。
それが嬉しくてとび跳ねながら(あ、これは心の中だけだから!実際はちょっと小走りしてるくらいだから!)袖口を引っ張ったまま船の甲板に出る。
「ほら!」
珍しい虹だったのだ。空に弧を描くような半円の虹ではなく、完全なる円の虹。
「ほう…」
目を細めてそれを眩しそうに見る高杉晋助という男は所謂彼氏というものである。
その表現が正しいかどうかは甚だ首を傾げるしかないのだが、客観的に関係だけを問えばそうとしか答えられない。
保護者、というにも何かが違う。
とりあえずは、恋人といって差し支えはないだろう。
「ね、綺麗でしょう?万斉さんがねね、晋助は風流のあるもの好きだって言ってたから、気に入るかなと思って」
「ああ、そうだな」
気に入ったとも、なにも言わないが、穏やかな顔をしているからきっと気に入ってくれたのだろう。
素直じゃないんだから。
笑みを零すと、少し睨まれる。でもそれが照れ隠しだと知っているから、ますます笑いが込み上げてくる。
「わっ!」
「気持ち悪ぃーからそのニヤけた顔止めろ。…ったく」
ぐしゃぐしゃと髪を引っ掻きまわされた。
「はーい」
そういえば、と思い出したように晋助はポンと手を打った。
「どうしたの?」
「今日は満月らしい。最近雨ばっかだったが晴れるんだとよ」
「お月見する?」
「酌するんだろーな?」
「勿論。私も飲んでいい?」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。寝言は寝てから言え」
私の酔い方は大人しい筈だが、聞いたところによるとキス魔になるか、酔いつぶれて寝てしまうらしい。
…あと、まだ未成年だからか。
「あと3年経ったら、な。それまで我慢しとけ」
意外と律儀な男である。そこらへんはきっちりと守るらしい。
「…わかったもん。でも晋助の分、一口だけ貰うからね」
「ハッ、好きにしろ。寝こけんじゃねーぞ」
ひらひらと手を振って船の中に戻って行く後ろ姿を見て、いいもん、と口を尖らせる。
媚薬でも酒に混ぜてやろうかしら、なんて思ってみて止めた。
あの万年発情男にそんなものを飲ませたら、どうなるかわかったもんじゃない。
腰が痛くて立てなくなるに決まってる。
「また子ちゃーん!お団子買いにいこー!!」
ちょっとした休暇
を満喫してやるんだから!いいもん、花より団子だもん!