今宵は満月。辺りは月の光でうっすらと明るく、星は月で見えなかった。
水
面
に
揺
れ
る
月
ひたひたという、板の上を歩く音が止まった。
「沖田さん、寒くはありませんか」
は、問いかけながら総司に羽織を掛けた。
「ありがとうございます、さん」
微笑んだその顔は、どこか辛そうで、の心が少し傷んだ。
総司は結核が原因で、長くは生きられないという。
「…できるなら替わってあげたい」
そして、この笑顔を本当の笑顔にしたい。
あなたの運命を少しでも良いから捻じ曲げたい。
だが、神様は残酷だった。
まるでを嘲笑うかのように、総司の容体は日を追うごとに悪くなっていった。
「神様って意地悪ですね、どうして沖田さんがっ…!!!」
「でも、その代わりに強さを貰いました」
途中で泣き出しそうになったに、総司は静かに言った。
それから、外の池に目を移した。
「神様はね、きっと強さを与える代わりに私を結核にしたんです。
強い者がいつまでも生きていたら、世界が狂うから」
でもね、総司は続けた。
「生まれてきて良かったって思えるんです。皆に、新撰組の皆に会えて、さんに会えて」
「沖田さん…」
口から出る言葉は、ことごとく遺言のように、には聞こえた。
「確かに、あと一年も保たないというのは辛いですが、私は笑って死にたいんです」
笑って死にたい。
それは人類ほぼ全ての最終的な願いだろう。
叶わない人の方がずっと多い。
だが、若い総司が言うと悲痛な最期の願いに聞こえて。
それを叶えてあげなければという思いが、胸に膨らんだ。
「ねぇ、沖田さん。私ね、ずっと沖田さんが好きだったんです」
二人とも口を開かず静寂が広がっている中、静かにが口を開いた。
内容はあまりに突然すぎるもので、総司は、驚いた顔で一瞬固まった。
「……さん?」
「別に、答えてもらおうっていう訳じゃないんです。ただ、知っておいて欲しいなって」
総司の反応から駄目だと悟ったのか、慌てて訂正…否、補正するを見て、
総司は、小さく吹き出した。
「何一人で解釈してるんですかー。いつ私が、さんが好きじゃないって言いました?」
「へっ…?」
総司の小さなウインクを見て、の目からはいつの間にか涙が一筋流れていた。
その涙を総司の舌が抄う。
「い、いや、あの沖田さん…ちょ……」
いつの間にかの頬には総司の手が添えられていた。
舐められたことにプラスされて、は驚き、何か言いかけてはやめ、言いかけてはやめた。
しばらくその行為を続けていたが、やがて落ちついた。
その間もずっと手は添えられていたわけで。
は総司を真っ赤になりながらみつめ、総司は静かにをみつめ、自然に二人の唇が重なった。
長くもなく短くもない口付けは、月を背景に、ゆらりと水面に映っていた。
は総司を真っ赤になりながらみつめ、総司は静かには一人で廊下に腰掛けていた。
隣で笑っていた総司は、もういない。
音なく、肩だけを震わせ泣く少女を、あの日と同じ満月が、静かに照らしていた。