『きょーやくん』、私のこと覚えてくれてるかなぁ。
いや、それより私がまず『きょーやくん』を見つけられるかが問題よね。
あれから10年こそ経ってはいないけれど、もうずっと会っていないのだから。
やっぱり格好よくなってるのかな。
えっと『きょーやくん』の苗字はなんだったかなぁ。
すずめ…?あれ?
ガッ、ゴッ…。
「ねぇ、僕は群れるなって言ったよね」
どうして群れてるの、その言葉を聞く人間はそこにはもういなかった。
数人の男は皆一様に、シャツには血を、肌には傷やら打撲やらをつけていて見るに耐えない。
丁度そこに居合わせた同じ制服を身にした彼等はそれを見ようともせず、その場を次々と足早に立ち去っていく。
しかしそんな中、一人の少女だけが向かい側のレンガの柵に腰を下ろし、立って、倒れた男達を見下す少年を何も言わずにじっと見つめていた。
(ちょっとだけ『きょーやくん』に似てるがも)
人がいなくなっていく中、動かずにいる少女とその視線に少年は顔を向けた。
「君は逃げないの」
「うん」
「ふーん」
そこで少年は少し考えるように顎に手をやった。
自分のことを知っている人間ならばほぼ皆一様に同じ反応を見せるのに。
「キミ、僕のこと知ってる?」
「ううん、有名人なの?私今日引っ越してきたからさぁ」
ごめんねと首を傾げる少女。
やはりとは納得しつつ、しかし少年は今日、という言葉にひっかかった。
確か従妹だからと親に押し切られた人間の引っ越し日は今日だった筈だ。まさか。
「キミの親戚に雲雀っている?」
「どうして分かったの!?エスパー!?」
「違うから。多分キミの引っ越し先、僕の家」
「…………え?」
「行くよ」
少年は少女の手首をぐいと引っ張って早足で歩きはじめた。
「ま、待って!名前教えて、名前!」
「雲雀恭弥……って何。行くよ」
やっと歩きはじめたかと思えば、少女は恭弥と名前を知った瞬間足をとめた。
怪訝にそれを振り返って見えたのは呆然と自分を見やる少女だった。
「……きょーや、くん?」
まだ幼い頃、唯一気を許し、名を呼ばせていた女の子は大分前に引っ越していってしまっていたから、恭弥、と名を呼ぶのは今や両親だけとなっていた。
そしてその女の子の名前が、
「……………?」
「きょーやくん!!」
少女は掴まれた手を振りほどき、少年に抱き着いた。
見付かればいいなとか、覚えていてくれてるかなとか、そういう思惑は不要だったらしい。
抱き着かれて固まった少年も一瞬の後に抱きしめかえす。
「私達、従兄妹だったんだね」
「でも従兄妹って法律上結婚できるんだよ、知ってる?」
少年の言葉に少女は驚愕の目を至近距離に向けた。
「覚えて…、」
「当たり前でしょ」
結婚しようね、なんて小さい頃においてはよくある話だった。
結婚の意味さえ曖昧で、しかもそれは大きくなるにつれて忘れられていく。
でも忘れられなくて、少女は親の転勤先から無理を言って戻ってきた。
少年も少年で、これから先たとえ再会できなかったとしても彼女以外に心を開くことはないと誓っていた。
きょーやくん、きょーやくん
なに
だーいすきっ!
うん、ぼくもが好きだよ
ほんと!?
本当だよ。僕がに嘘つくと思う?
ううん、思わないっ!
でしょう?
じゃあ、おっきくなったらと結婚してくれる?
いいよ。でもそれ、ちゃんと覚えててよ
うん!
「着いたよ」
「ここ、が…私達の家」
「うん、僕達の家。ねぇ、キスしてもいい?」
そして
僕達は
私達は
そっと
唇
を重ねた
(企画提出用)