―――我愛羅
心の中でそっと呟いてみる。
風影となった彼はいまやこの国にとってとても大切な存在になった。
化け物と恐れ嫌われていた少し前とは天と地にも及ぶ大きな差である。
それに加え、彼をかっこいいと頬を染める女が増えてきた。
崇め讃える者が増えてきた。
どうして?
あんなにも忌み嫌っていた筈でしょう?
私だけが理解者だったのに。
私だけの我愛羅だったのに。
私のもの取らないでよ。
心中に巣食う闇がもやもやとかたどられていく。
黒いものが増えていくのがよく分かる。
私だけの我愛羅で、我愛羅だけの私だったでしょう?嫌よ、私から離れていかないで。
いらない。
近づくな。
俺にはもう周りにいてくれる人がいる。
だからお前はもう要らない。
風船が弾けたかのように目が覚めた。
(嫌な夢…)
私がどれだけ醜い女なのか、この夢を見るたびに思い知らされる。
我愛羅、貴方がそんな人じゃないことくらい分かってるわ。
どれだけ一緒にいたと思ってるのよ。
囲まれながら、50歩くらい離れたところでそれを見ている私に、目だけではあったけれど申し訳なさそうに謝るの。
そんなことをしてくれるから私は貴方が憎めない。
いっそ突き放してくれたなら憎んで憎んで楽になれたかもしれないのに。