
グリフィンドールの=と、スリザリンのトム=マールウ゛ォロ=リドルが所謂彼氏彼女、つまり言い換えれば恋人の関係にあるのは誰も知らないことだった。
「リドル、いるんでしょう?」
外から入る自然美の光だけが唯一の薄暗い小さな部屋に透き通った声が響く。
密かなる逢瀬。
それに答えるように光がひとつ突に浮かんだ。
ふっ、はその端正な顔にバランスよくおかれた唇に薄く笑みをのせる。
「リドル」
ふいに何処からか手が伸びてきて、彼女の頬に添えられた。
やがて降ってくる口付けを目を閉じて待つ。
目を閉じると、そのほかの神経が鋭敏になると云うのは本当らしい。
、と艶かしいアルト声が耳元で囁かれ、唇に温かなものを感じた。
口を軽く開く。
すぐさま舌が割り入る。
幾度となく繰り返された行為であったが、どうにも下手らしい。
そのうちに息が苦しくなって、リドルの肩を押して唇を離した。
まるでフルマラソンをしてきた直後のように頬は上気し、吐く息は荒い。
再度ひやりとした指が頬に触れた。
その瞬間、の足にかかっていた力が抜けた。
カクンッと崩れる膝は重力にならって身体を落とす。
咄嗟に出た手がの腰を支えた。
「ありがとう、リドル」
そのまま彼女を一番近くにある机に座らせる。
最後に使われてから時間の経ったそれは冷たい。
「ねえ、」
首を傾げて答えた彼女に、リドルは何でもないと首を振って、額を彼女の肩に押し付けた。
男のものとはまるで違う、少し小さな手が彼の髪に絡んだ。
彼がそういった行動をとるのは決まって、疲れているときであった。
まだホグワーツに在籍しながら、ヴォルデモートという名を用いり、少しずつしかし既に多くの配下を携えた彼も、完璧なまでの優等生を演じ、それでいて弱みというものを微塵も周りに見せずにいるのは相当に疲れやストレスが溜まるらしい。
だから支えになりたいと思うのだ。
は、密着していても感じるのが困難な程の微弱な震えに気が付いた。
髪から手を離し、そっとその背に腕を回す。
「貴方は今不安なのね」
確認ともとれる彼女の問いかけに、リドルは頷くことも首を振って否定することもしなかった。
つまりそれは肯定の意であった。
彼はただ彼女をしがみつくように抱きしめる。
子供をあやすかのように、ぽん、ぽん、と緩やかなリズムで背を叩いているとやがて、奮えは止まっていった。
けれどの背に回した腕は未だきつく、当然、彼等の身体もまだ離れていない。
彼女は、リドルの頭に軽いキスを落とした。
「どんな貴方でも私は愛し続けるわ」
はっきりと言い切る。
ゆるゆると腕は外された。
緩慢に顔を上げるリドルの瞳は潤み、さながら飼い主を見付けた捨て犬のようであった。
ありがとう、小さく呟かれた声がの耳に届いたかどうかは定かではない。それから彼女は微笑んだ。
「もう遅いし、戻りましょうか」
「そうだね」
また偽りの生活に戻る。
自ら望み、決めたことでも辛くなるときがある。
しかし温もりがある。自分だけの、他の誰も知らない温もりが。
言葉を交わすことなく、ただ黙って手を繋ぎ、それこそ一寸先すら見えない暗い廊下を歩く。
カツン、カツン。
「ここまでで良いわ」
「そう?」
グリフィンドール寮からまだ少し距離のある場所で立ち止まった。
二人の関係が周知になれば、更なる好奇の視線に晒されることは免れられないからである。
「次は明日?」
「うん。じゃあ明日は部屋にいて。箒で行くよ」
「わかったわ、待ってる」
軽いキス。後ろには窓から覗く数え切れない程の星々。
「ねえねえ、貴女本当に付き合ってる人いないの?好きな人とか」
「いないわよ」
「ふーん…あ、トムだわっ!」
「ほら、教室はあっちでしょ」
待ってよという友の声を聞きつつ、目的地へと足を軽快に進める。
すっ、二人がすれ違った。
視線は交わらない。
反対方向へと向かうその一団が、同じような会話をしているのが微かに耳に入り、彼女は、誰にも気付かれないくらい小さく口の端をつり上げた。
それは自分達二人だけが知っていればいい。

(ひみつりのキスキス)
Dear.翠様
結局何が書きたかったのかわからないものになってしまいました。
ツンデレリクエストがいつの間にやらビターテイストに…ごめんなさーい!
返品はじゃんじゃか受け付けていますので、いつでも「いらねーよ、こんなもん」って突き出して下さいね!